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柔らかい灯りの中を歩く。

闇夜の中、街の中心部に作り出される、昼間のような明るい空間。



光を生み出すのは、露店が連なる通り。食べ物から雑貨までその種類に統一性はない。

連なる店に装飾として飾られている黄色や赤、青といった様々な色の電球が、この空間を更に明るくさせていた。






「……」



その通りを、荷物を抱え歩く。俺の横をこの時間外にいるのは珍しい年代の子どもたちが駆けていった。




(……何かの祭りか)



 


向かうのは言わずもがな荷物の配達先。記載されていた住所が適当だったのは、ここに出されている露店を指していたかららしい。


あたりを適当に見渡して宛名の「おもちゃ屋」を探す。十は優に超える露店の中、複数ありそうなおもちゃ屋。探すのは骨が折れそうだと一人、一息ついたとき。






「おーい、にいちゃん!」



背後から聞こえた呼び声。反射的に振り返ると、少し遠くから、小さな出店の中にいる大柄の男が俺を見て手招きをしているのがわかった。



探す手間が省けたと思いながら、男の方に足を向ける。祭りのせいなのか夜にしては多い、人と人の間を縫い足を進める。


男は近づいてきた俺を見るなり、満足そうに何度もうなずいて見せた。






「あんただな、噂の配達屋ってのは」




何が噂になっているのか知らないが適当にうなずき返す。それからやけに重い荷物の伝票を確認して、男に差し出した。




「……あんたか? この荷物」

「おう、助かったぜ。こんなに早く届くとはよ。仕事の早さは噂通りだな」




男が上機嫌のまま軽々と荷物を受け取り、その場で早速開封をはじめる。

代金の支払いを待つついでにその過程を見ていると、届けた大きな箱からは子ども向けの玩具がこれでもかというぐらいに出てきた。




(……商品か)




「……よし、中身も大丈夫だ」

「なら、サインと代金を頼む」

「おう、待ってな……。…いやーしっかし本当に早えな、一昨日だぜ注文したの。何で移動してんだ? にいちゃん」

「……バイクだ」

「バイク? こんなでっけえ荷物乗せてんのか? どんだけでかいバイクだよ」




想像されているようなバイクではないだろうなと思いつつ、話し始めたらキリがないと思って黙る。男は何か一人で喋っていたが、中身を一通りチェックし終えた後すぐに金と伝票をこちらに手渡した。




「ほらよ」

「…確かに受け取った」

「本当に助かったぜ。これで24日にはバッチリ間に合いそうだ」

「……24日?」




諸々をしまいながら、訊き返す。男は最初ぽかんとしていたが、俺が「24日」の意味を理解していないことに気づいたのか、大きな声で笑ってみせた。……まるでバレットだ。



「がははは! 兄ちゃん知らずに配達してたのかよ。24日っていやぁあんた、聖夜祭だろ?」

「…聖夜祭? ……ああ」



つぶやき返してから思い出す。聖夜祭なんていう……年に一度の祝日があったことを。

男は、何かに気づいた俺にまた、大きな声で笑って話を続ける。




「思い出したかい? ここの祭りは、聖夜祭の前夜祭みたいなもんさ」

「…前夜祭って言っても、24日までまだ少しあるだろ」

「この街は観光客が多いからな。こうやって祭り自体は少し前から開いて、作ったもんとか商品を売ってるわけよ」

「なるほど……やけに人が多いわけだ」




この街についたときから感じていた不思議が解消され、腑に落ちる。

謎が解けたからいいかとその場を去ろうと思ったとき、男がまた言葉を続けた。




「しかしよ兄ちゃん。その様子じゃあんた、まだだな?」

「…何が?」

「何がって…プレゼントに決まってんだろ。あんたぐらいの色男だったらいるだろ? あげる相手ぐらいよ」

「…………ああ…そういうことか」

「やっぱりまだだな。せっかくだからこの街の出店で買っていきな。贈るのにいいモン、色々売ってるからよ。……別にここでおもちゃ買ってくれてもいいんだぜ?」

「おもちゃはいい………、いや待て」




ふと脳裏に浮かんだ、今遠い地にいる家族の顔。

遠方に配達に出てから一週間しか経っていないのに、それだけなのに、随分と会っていないような気がする……それぐらい一緒にいるのが当たり前になっている、家族。


マリンとデンゼルと……そして。




(……)




「…今、人気のおもちゃは何だ」

「?」

「…ふたつ、買おう」

「お? なんだあんた子持ちか。それなら……」




玩具の説明を始める男の話に耳を傾けながら、大切な人のことを考えた。

大切な人が……笑顔になる瞬間を、考えた。









賑やかさを失わない街の中、おもちゃ屋の男の店をスタートに、露店を伝って進む。


改めてちゃんと店の売り物を見ていると、思っていたよりずっとその種類や系統が豊富なことに気づく。食べ物、置物、工芸品……。



「……」



店の前を通る度に声をかけられ、商品の宣伝をされ…を繰り返しながら俺はひとり考えていた。何を贈ればいいのか……ティファは、何だったら「本当に」喜んでくれるのかを。



わかってる。ティファはおそらく、何をあげても喜ぶ。喜んだふりをするのではなくて心の底からの笑顔をくれる。それは、普段俺が頻繁に贈り物ができていないからという裏返しの意味にもなるわけだが……その話はひとまず置いておく。



だから……俺はわからない。ティファが今何を欲しいと思っているのか、そもそも欲しいものなんて彼女の中にあるのかどうかすら。ティファは、今で十分とか、家族がいれば何もいらないとか、そういうことを言って笑ってくれる優しい人だから。……優しすぎる人だから。





(……花)



ふと目に留まる、色とりどりの花が用意されてある露店。店主の話を聞き流しながら一通り見渡す。……花か。花は普段から、たまにだが渡しているし、綺麗な状態のままエッジに持って帰れそうもない。




次に、置物の店の目の前まで来る。大小の品物が所狭しと並べられているのを見て、ティファが客から貰った物をすぐ店に飾ることを思い出す。


全部飾るのかと、いつか嫉妬混じりに聞いたら、彼女は嬉しそうに「店に飾ったらお客さんがそれを見て喜んでくれるから」と答えた。……ティファに喜んで欲しくて渡したであろうその客のために、まだ喜びを返そうとするティファを見て、「俺以外からもらったものは置かないで欲しい」なんていうわがままを口にできないまま終わったことまで、一緒に覚えている。







(……置物はなしだ)




誰でもあげられるものを選んでも仕方がない。そんな取ってつけたような理由でその露店を素通りする。……置物を避ける本当の理由は、何となくしゃくに触ったからだ。無数いるティファ目当ての客と、同じ立ち位置に並ぶことが。



自分でも格好が悪いと思いつつ足を進める。足を進めながら、ただティファを想う。



何だったら、ティファは特別な贈り物だと思ってくれるだろうか。俺にしか渡せないものがあるんだろうか。ティファを大切に想う気持ちは……どんなものであれば、伝えることができるのだろうか。




(…ティファ)










そうやって、半分俯いて歩いていたときだった。一瞬視界に小さく、キラリと光が反射して映ったのは。



「…?」



反射的に顔をあげて光の方を見る。そこには、他の店よりも随分と小さな規模の露店があった。


無意識にその店の前で足を止める。年老いて見える店主の女性は、何かの作業中で俺には気づいていない。それをいいことに堂々と商品を覗き込む。そこには決して多いとは言えない数のアクセサリーが、無造作に並べられていた。



(……)



ざっと見た感じ、並べられているものは流行りに乗っかった安っぽいそれではなさそうだった。ガラスや宝石で装飾されているものが多く、防御力こそなさそうだがデザインは悪くはない。


何の気なしに品物を見ていたらまた、目の端に留まる光。さっきから何が光っているのかと改めて光を探せば、品物が載るテーブルの端にひとつ……片耳だけのピアスが置いてあった。




「……」




気づけば俺は無意識に、それを手にとっていた。


黄色の宝石の下に小さな緑の石がふたつ、チェーンで繋ぎ止められている…金色を貴重としたシンプルなピアス。

そのままそれを指で摘んで持ち店にある灯りにかざせば、ゆらゆらと光を纏って反射し輝いて見せた。






「…おや? お客さんいたのかい」



そうして光を見つめていたら、ふとかけられる声。

ようやくこちらに気づいた店主が、座ったまま穏やかな表情で俺を見上げている。



「…まあな」

「誰かに贈り物かい? うちには今時のものはないと思うけど、よかったら見ておいき」

「…もう見てる」

「んん? …ああ、それかい。綺麗だろう」

「……」

「その二つの石が揃うとね、癒しの効果があるんだよ」

「癒し?」

「そうさ……石には不思議な力があるんだ。そのふたつは優しくて強い力を持ってるからね。身につけていたらきっと元気にもなれるよ」

「……」



ピアスを見つめながら、ティファがつけたところを想像する。ティファは綺麗だからきっと何でも似合うのだろう。でもそれ以上に、もし俺が優しい彼女に癒しなんてものを与えられるのであれば……正直、石にでもすがりたくなるぐらい、願ってもないことではあった。




(……ティファ)




「……幾らだ」

「おやおや、一目惚れかい」

「……よく似合いそうな人がいる」

「似合うっていうのは、意味があることだからね。渡して、喜ばせておやり」




代金を渡しながらうなずき返す。簡単なラッピングをしてから手渡してくれた店主に礼を言いつつ……その光を守るように閉じ込めて、なくさないようにしまう。


それからようやく踵を返し、街の入り口にとめたままのフェンリルのもとへ足を向ける。









(……喜んでくれるだろうか)



突然こんな物を渡したりしたら、ティファは驚くだろうか。彼女が聖夜祭を知らないはずもないし、察してくれるのかもしれないが……そもそもティファは、気に入ってくれるだろうか。



思いを巡らせながら、これを渡すときのことまで考える。ティファのことを、考える。




(……)




街の灯りから離れ、大切な人のことを考えているうちに、思った。

……会いたいと。…せめて今すぐ、声が聞きたいと。




俺は何も考えず、しまってあった携帯を手にとった。


誰に、どこに電話をかけるかなんて頭で考える必要もなかった。俺の指は、心は、いつだってその宛先を覚えていた。




光 それはいつだって


(僕を、君のもとへと導いた)



To be continued ...


 

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