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ルミナリー通信

 

2021年

February

 

背景はゼラニウム

表紙やカバーに描かれているのはゼラニウムです。音綾ときね先生の「まぶしいから手をつないだ」にオマージュを捧げました。


本が実際に届いて、開いてみて、触って、何度も読めるってすごいなぁと改めて感じました。


この世に10冊しかない絵本です。手元に置いておきたいと思ってくださったあなたと、作ろうと誘ってくださったときねさんに、改めて感謝を。

文:石田



 




腕の中にいるティファを感じながら、閉じていた目をそっと開ける。彼女が無事であったことと出会えたことの喜びが入り混じり、緊張していた体の力が抜けていくのを感じながら。 ティファに気づかれない程度に顔を覗き込むと、彼女は俺の胸に顔を埋めて幸せそうに微笑んでくれていた。そのほっとしたような表情に、間に合ってよかったと一人安堵する。 そのまま柔らかい頬に口付けを落としたとき、つけてやったばかりのピアスが揺れて、また静かに光って見せた。 (……やっぱり、ティファみたいだ) あのとき……これを初めて手にしたとき、決して輝きすぎることのないこの光を、優しく控えめなティファそのもののようだと感じた。いつも何も言わず寄り添ってくれる…この人の持つ純粋な優しさそのもののようだと。 「……クラウド?」 光に見惚れているうちにかけられる声。目線を動かすと、いつの間にか俺を見上げていたティファと目が合う。 首を少し傾げて応えれば、彼女は嬉しそうな表情をさらに緩ませた。ティファが笑うと同時にまた、ピアスは揺れる。 「…ん?」 「…ううん。考え事?」 「いや……ティファのこと、考えてた」 「目の前にいるのに?」 「…うん」 「……思ってることがあったら、どうぞ言ってください」 「…話し出したら、夜が明ける」 「ふふ……それは困るなあ」


半分本気の冗談をティファは目を細めて笑ってくれる。一人の人間が受け止めるには重すぎるだろう想いを、ティファは何なく受け止める。こんなに繊細で、ときに小さく見える背中を持つ彼女だけど……きっと俺が思っているよりずっと、ティファは心の中に見た目よりも強い強い芯を持っている。 そんな彼女が無防備に、手放しで今を喜んでくれていることが、嬉しくないわけがない。 「……ティファ」 「?」 「…ううん。……あ、そういえば子どもたちにも一応…用意した」 「え、プレゼント? ありがとう、きっとすごく喜ぶよ」 「……そうだといいんだが」 「何にしたの?」 「…流行りの玩具を聞いた」 「…玩具屋さんに行ったの?」 「……うん」 「ふふ…ありがと。……たくさん私たちのこと、考えてくれたんだね」 「……ティファは特にな」 「…悩んでくれた…?」 「……街中歩いた」 「…嬉しい」 はにかみながらティファが自分の耳元で揺れるピアスに触れる。その笑顔があまりに愛おしくて、釣られて笑みをこぼす。普段家の外にいるときにはなかなか見せてくれない素直な表情。あげたピアスのせいか、今日という夜が彼女にそれを許しているのか……あるいは両方か。 (……) ティファが今、珍しく非日常を感じてくれているのならと……彼女の背中にまわしていた腕を解放した。そして不思議そうにこちらを見るティファを、今度は思い切り両手で抱き上げる。



「わっ、」


そのまま赤子を抱き上げるように腕を上へ伸ばせば、ティファは恥ずかしそうにじたばたとしながら俺の名前を呼んだ。 「ちょ、く、クラウド…!」 「ん?」 「ん? じゃないってば、は、恥ずかし…」 「誰も見てない」 「…もー……!」 怒ったふりをしながら、ティファは俺の両方にちゃんと手を添えてくれる。俺を見下ろすその表情が怒りからくるものではないことを、きっとティファも隠すつもりはない。 彼女に合わせてピアスは揺れる。俺の喜びを表しているのか……それとも。 「……」 ここが外だということを俺たちは都合よくすぐに忘れて、視線を絡める。ティファが身をかがめ、俺と鼻先を合わせる。 そのまま何も言わず待っていたら、ティファはそのままゆっくりと口付けを返してくれた。 「……、ん…」 「……」


目の前が真っ暗になるまでしっかりと瞳を閉じて、お互いを味わう。確かめる。ティファが欲しいと、このまま取り込んでしまいたいと、決して一つではない欲求が俺の中で確かに育っていく。 まだ名残惜しいというときにそっと離れていくティファを想いのままに見上げれば、ティファはうっとりした目をしながらも困ったように微笑んで見せた。 「……クラウド」 「…?」 「……続きは、おうち帰ってからね」

少しいたずらっぽく呟くティファに、息をつきながら頷き返す。こんなことを言わせてしまうなんてよほど欲しい顔をしていたんだろう。それもそうだ。そもそも会うこと自体久しぶりだったんだ。喜びを制御できないのも自分で納得がいく。 微笑み合いながら彼女を地面に下ろす。どんな想いも抱き止めてくれる人に、俺は今夜も見惚れる。 ティファには言えないけれど、本当は今日が何日でも何の日でもよかった。ティファと一緒にいられるのなら。ティファに何かを与えられるきっかけになるのなら。ティファが、笑ってくれるのなら。 「…ティファ」 「……うん。…クラウド」 聖夜、決して明るすぎない街灯の下、俺たちは手を繋いだ。 「…帰ろう」 光はティファが持っていた。俺はそれ以上、何もいらなかった。

ルミナリーのまばたき

「…ティファ」

 

ルミナリーのやくそく うらばなし

文:音綾ときね


後書きのようなものを上手に書けた試しがないのですが、せっかくの機会なので制作過程だけでも振り返らせていただくことにしました!張り切って書いたら驚きの長さになったので、よければお暇つぶしにご覧ください。


◎そもそも

今回、石田さんがクリスマスに何かをしたいと呟かれていたところに、何も考えずに「は〜い!」と飛びついたところからお話ははじまりました。やりとりをさせていただく中でふくらんでいく夢と希望……「間に合うかはともかくとして」という魔法のフレーズを合言葉に、とんとん表紙に話は進んでいきました。そしてこのような役割分担になりました。

石田さん:お話の案 / 表紙デザイン・イラスト / 中身イラスト      ツイッター用画像・ロゴデザイン / アクセサリー作成 / サイト管理 音綾  :お話 / 絵本・ネップリ用の原稿デザイン・作成 / サイト管理     (心の声:あれ?石田さんに任せすぎでは?)

打ち合わせの後、我々は妄想を出し切りすっきり楽しい気分になりました。そしてそこまできて、ようやくスケジュールを振り返り、気づきました。その時点でクリスマスまでもう二週間も残っていないことに……。(その直後から怒涛の創作期間が始まったことは想像できる範囲です)


◎ピアスの奇跡

みなさま、ピアスの写真はご覧になられたでしょうか……そうです、こちらです!


なんということでしょう!これ売り物ではなく、石田さん直々に作成いただいたピアスなのです……。


しかもこのピアスができあがるまでの過程で、奇跡のような魔法がかけられています。


そうです……デザイン元が私なのです……。なんだ自慢か?と思われたあなた……違うのです。ひとまず、私が石田さんに送り付けたデザイン案をご覧ください。「……うん。…クラウド」







 

おわかりいただけたでしょうか。このおそろしいデザイン案を……


石田さんマジックがいかにすごかったかを知っていただきたくて公開処刑することにしました


(ほんとは全部手で字を書いていたのですがあまりに汚いので打ち直しました。石田さん!いつも字が酷くてすみませんでした!)。


これを、締め切り間近、真夜中に送り付けられた石田さんの心中を察すると苦しくて仕方ありませんが、ひとまず私は「アクセサリーのデザインを考えさせていただく」という役目をこのような形で終えました。ひどい話です……いくら絵と造形のセンスがアレだからって……。 しかしここで魔法がかけられます。石田さんは私のデザインをみるや否や「こういうことですね!」といろいろなアクセサリー素材の写真を送ってきてくださり、私がただ頂く質問に「はい」「いいえ」で答えながら感動しているうちに、あっという間に今回のデザインに辿り着かれました。 完成後私はつい「思っていたやつです!」とお答えしてしまったのですが、冷静になって考えたらどの口が「思ってたやつ!」なんていうおこがましい返事をしているのでしょう……。たぶん表現できていたのは、ニョロニョロの素材だけです……(?)私は自分が……恥ずかしい……。 ピアスをそのあとお話で、大切な存在として描かせていただきましたが、すべては石田さんの魔法で生まれた実物ピアスのおかげでした!石田さんこの場を借りて本当にありがとうございました!(ほんとに!)


◎文字数大誤算と原稿

今回お話と原稿担当として最大のネックだったのは  文字数  でした。web公開や個人本とちがって、絵本という特殊な冊子の原稿には収められる文字数に制限があり、好き勝手書けません。絵本の見栄えのこともあり、できるだけ少ない文字数で収めなければならないという課題がありました。しかし…… こちら、お話に着手する直前にお送りしたDMです。絵本のページを16ページぐらいでおさめようとしています。


ドヤ顔で「全部で8000字の予定でおります!」なんて書いてありますが、実際にできあがったお話は全部で20000字です。実際の絵本は合計36ページになりました。なにも予想……できていなかった…… この大幅な予測ミスのおかげで、このあと原稿作成作業で目をまわす展開になるとは、このときの私はまったく想像していませんいませんでした。そして大幅ページ増(印刷会社さんが対応できる最大ページ)を許可いただいた石田さんありがとうございました。どうしてこんなに自信満々なの?



◎おはなしのこと

今回、石田さんに 「クリスマスすれ違う二人、アクセサリーをクラウドが一生懸命探してティファに贈ろうとする」 という案をいただいてから書き始めました。クラウドが一生懸命プレゼントを選ぶというところがもう既に、最高!でした。 そして描いて送ってくださる二人の表情が、回を追うごとに真剣に、感情的になっていくのを拝見しながら お互いあまり聖夜を特別に思っていなかったとしても、「会えるかも会えないかも」を繰り返す中でどんどん大切な日になっていくのかな〜 と展開がふくらんでいったことは覚えています。 クラウドはひょんなことで彼女のためにピアスを買う。その存在を旅先で確かめるたびにティファのことを想う機会も増える。逆にティファは帰る約束をしてくれたクラウドのことを、日が近くごとにいつもとちょっぴり香りの違う感情で待つことになる。いろいろスムーズにいくことの方が少ない二人だから、案の定障害が訪れるけど、諦めようかなどうしようかなという葛藤の中でやっぱり諦めきれずに手を伸ばす。 ただの聖夜といえばただの聖夜だけど、聖夜という日がきっかけにその人のいる喜びを、新鮮な形で感じられる時間が二人に訪れたらいいな……。 みたいなことを、ちらりとどこかで思った気がします。ん〜?何を言ってるかわからないですね(笑)


シーンや展開の盛り上げどころを、描いていただく絵を感じながら一緒に作らせていただく経験は、とても得難いものでした。ありがとうございました!

◎おしまいに

最後は間に合うかどうかちょっとヒヤヒヤしていたのですが(誰のせいでしょうか、最終話を急遽頭から書き直した私ですよ)、無事企画を終了することができました。今更ですがロゴとってもおしゃれですよね…!嬉しくてずっと自慢したくて機会を逃し続けていたので、おしまいで自慢させてください(笑) 今回完全プレゼント制にしよう!ということもあり、絵本の数を多くご用意できませんでした。だけどそれでも、たくさんの方に抽選に参加していただけてとても嬉しかったです。せめて感謝の気持ちだけでも伝えさせてください。 お話以外でこんなに文字数を使ったのが多分初めてなので、あとできっと読み返して「消したい〜!」という気持ちに襲われるのだろうと思いつつ……(笑) ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました!そして何より、期間中・期間後に作品を見てくださったみなさま、ありがとうございます。尊敬する石田さんと走らせていただけたこと、そして読んでいただきご感想などいただけたこと、毎日更新のとても大きなエネルギーとなりました。読んでいただいてやっとお話は続くものなのだな……と、改めて感じさせていただけた期間でもありました。素晴らしいクリスマスを、本当にありがとうございました! またなにかの機会でお目にかかれることを願いつつ、今回はここでおしまいにさせてください。脅威の4000字弱の独り言にお付き合いいただき、改めましてありがとうございました!クラティ大好きです。

さいごに、ここまで読んでくださったとても親切で優しいあなた様にささやかなお礼の小話です。 もしよければ、どうぞ〜!


 

5.5 帰宅後

「ただいまー……って、そういえば灯りつけっぱなしだった」 「…最初家に戻ってきたとき、消し忘れたまま寝たのかと思った」 「ごめんごめん……留守電に気づいて、つい…慌てて外出ちゃって…」 「あ……。…それなら俺の責任だ」 「ううん。それぐらい嬉しかったの」 「……ティファ」 「…さ! クラウドおなか減ってるよね。今日お店で出したものの残りになっちゃうけど、いい?」 「ああ…何でもいい。ありがとう」 「うん。じゃあ座って待ってて」 「…………」 「…えっとー……スープもまだ残ってるかな…。……お肉も出せそう………って、クラウド?」 「…うん」 「あ、危ないよキッチンまで来たら……火使うから」 「……うん」 「…。そ……それに、私さっき結構走って汗かいたから、あんまりくっつかないほうが……」 「俺も似たようなものだ…」 「そうだけど……」 「………ごめんティファ」 「…え?」 「……。…確かに腹は減ってる。ティファの料理は食べたい。でも…」 「…でも?」 「…食欲より、ティファを我慢できそうにない」 「……え、」 「…だめか」 「ちょ……ま、待ってクラウド、せめてシャワー浴びたい…」 「…待てない」 「え……じゃあ、どうする…?」 「……待たないか、一緒に入るか」 「…その二択…?」 「うん」 「ご飯は…?」 「そのあと」 「…んー…」 「……せっかく二人なんだ、ティファ。……頼む」 「……もう。…………じゃあ、一緒に入る」 「…うん」 「……スープもちゃんと、食べてくれる? ……美味しくできたの」 「食べる。……明日の朝になるかもしれないけど」 「…。……ぎりぎり、許す」 「…ありがとう」

「ごちそうさま、」


 

ルミナリーのやくそく うらばなし

文:石田

まず、自慢させてください。音綾ときねさんと言えば、とにかくすごい方で、あっという間に最高にドストライクなクラティを書かれるの書き手さんです。そんな方と一緒に絵本を作れるのは本当に2020年に起こった奇跡の一つです。

ペリドットとシトリン

ペリドット:明るさと希望をもたらす。8月11日生まれの誕生石

シトリン:健康を回復させる。5月3日生まれの誕生石


ペリドットの癒やしの力を更に引き出してくれるのがシトリンです。相性の良い石の一つですが、オタクはそれ以前に上記の誕生石に目がいってしまいますね。


これが「ルミナリーのやくそく」の物語の主軸になります。


ピアスは世界にひとつだけですが、せっかくなのでペンの中に入れました。

どの色が届いたでしょうか?



 

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